折り返す千代紙の鳥 蝉時雨 夏の音がした 飛び方を知らない翼 舞うように空に同化する...
誰も知らない、昔の話。 そっと火影(ほかげ)は語り出す。 冷たい波音、響く丘で、 その娘は生まれた。...
彼方吹く清(すが)し風 浴びて 尽きせぬ思い 満たされぬ心(うら)いとも憂しと...
降り頻(しき)る 雪に染められ ひとりきり 緩やかに 絶える言葉に 涙散る 淡い記憶に 惑わされ 風の便りに 宛てどなく...
いま、大気圏の綺羅星(きらぼし)が滲むようだ 朝惑いを呼んだ音がした その藍白(あいじろ)より燦々(さんさん)と落ちたらしく 五月二十二日にかすかに映れば...
砂の匂いは頬なぞる指先の記憶 裸足で駈(か)けた汀(みぎわ)に心震えている 消えゆく足跡なら せめて綿津見(わたつみ)の歌にのせ...
罪の中に沈む 鳥籠には孤独 青く染まる羽根は 空に舞って溶けた 傷だらけの心 気付けなくてそっと 離れていく君が 遠く見えた記憶...
優雅なクルージング 水平線の彼方 黄砂は吹き流れて オードブル汚(けが)すよ 希少な黄金で めかしたオクトパスは 波間に痕をつけて 泡沫(うたかた)に消えるの...
純白のレースで飾り立てたいの? 人形遊びならお一人でどうぞ 誰かの色には染まりたくないの 理想通りのお姫様と結ばれたいなら...
春を濡らす時雨の音色が絶えたとき そのわずか一瞬に蛹は蝶になる 燃ゆる夏に蝉の声が満ちゆけば 地下に埋もれた骸さえ夢を見る...